大きな大きな動物園

ひろしは小学4年生。

今日はクラスのみんなと動物園へ遠足に来ました。

「鬼ごっこしようぜー!」

「うわ、こいつ、汚ねえ〜!」

クラスメイトのみんなは友達同士で遊んだり、チンパンジーを挑発したり、おおはしゃぎです。

けれど友達のいないひろしはお弁当を食べるのも独りでした。

「動物園に来たのだからたくさん動物を見て帰るんだ。」

ビニールシートを畳み終えると、ひろしはそう決意して、動物園の端から端まで隈なく歩くことにしました。

動物園にはたくさんの動物がいたけれど、鳥類が特に多く飼われていました。

羽を広げたままスキップをするクジャク

口をあんぐり開けたままボーっとしているペリカン

フクロウは昼間なのに、その猛禽類の鋭い瞳でひろしのことをじーっと見つめてきます。

オウムに至っては
「ユルシテクダサイ。モウシマセン。」
と、繰り返すばかりでした。

ひろしには、どれもみな、退屈そうに見えました。

そうしてしばらく歩いていると、動物園の一番奥までたどり着きました。

気がつくと周りには誰もいません。

ふと、突き当りと思われた茂みに立札があるのを発見しました。

「エリートコース」

こう書かれたその立札の横に、細い道が遠く上の方まで続いていました。


ひろしは少し怖くなったけれど、集合時間まではまだたくさん時間があったはずだと思い、勇気を振り絞って小道をずんずん進んでいきました。


小道を上った先は、切り立った崖で行き止まりになっており、そこには動物園の檻がぽつんと一つ建っていました。

ところが動物がいる様子はありません。

「せっかく来たのに。」

ひろしはがっかりしました。でもよく見ると他の檻と同じように中の動物の名前を書いた立札が立っていました。



「人間」



ひろしは子供騙しなブラックジョークに苦笑しながら、
「動物園の園長がこっそり人を飼っていたりしたらおもしろいなぁ」
などと妄想しました。


5分ほど経って、もう帰ろうとしたとき、ひろしはその檻に妙な違和感を覚えました。

なんだろう……。

目の前にあるのは何の変哲もない檻です。もちろん中には人もいないし、人がいた形跡もありません。

「あっ……。」

ようやく気がつきました。他の動物の立札は檻の外に立てったいたのに、人間の檻だけ、檻の中に立札が立っていたのです。

ただそれだけ、ただそれだけでした。

初めはなぁんだ、という顔をしていたひろしでしたが、次第に何か云い知れぬ恐怖に襲われ、その場を逃げるように去りました。



それからというもの。

勉強の出来たひろしは進学校に進み、日本で一番頭のいい大学に進み、専攻した宇宙物理学で才能を開花させ、今や物理学界の将来を背負うホープとして国内外から一目置かれる存在になっていました。何もかもが上手くいっていました。





そんなある日、ひろしは自殺してしまいました。

遺書にはたった一言。


「わかってしまったんだ。あの日僕が見たことは本当だった。」







神様は大変お嘆きになり、次の者を誘いました。



おわり