錬金術師と化学者 アルケミスト&ケミスト

巷で大人気だという『鋼の錬金術師』、漫画喫茶で9巻まで読みましたよ。
いやー、原作者の言うとおり「これを錬金術と称すなんてハッハッハッ・・・」という感じですが、まぁ、マンガなんでどうでもいいです。面白ければ。

等価交換(=質量保存の法則)や人体の構成成分など、一部化学的な考え方も出てくるようで興味深かったです。マンガとしての面白さは他の人たちが評している通りでした。
 
我々化学屋さんから見れば”錬金術師”というのは化学の実験器具を発達させた偉大なる先人であり、同時に、魔術まがいの行為に没頭するあまり学問としての化学を100年は遅らせた歴史的罪人とでも言うべき存在です。この人たち(およびそのパトロン)が欲に取り付かれて「鉛から金を作ろう」などと妙なことを考えず、純粋に物質の立ち振る舞いを研究していれば化学の基礎研究はもうちょっと早く進み、メンデレーエフ以前に周期表は完成されていたかもしれません。

ちなみに英語の化学者(chemist)の語源は錬金術師(alchemist)からきたものです。

さて、彼らが思い描いた形とは随分違うものとなりましたけれど、20世紀に核融合核分裂という現象が発見されて、原子レベルではありますが、ある物質を他の物質に変換することは不可能ではなくなりました。これらの現象では物質の変換そのものより、反応によって生じるエネルギーの方に焦点がありますが、まさに現代の錬金術と言ってもよいものでしょう。

もし本当に鉛から金の合成が可能だったら今頃どうなっていたでしょうね。
金が大量合成され過ぎて金の価値が大暴落し、鉄の方が高価になってたり。

先ほど人体の構成成分が、と書きましたが、人間の体を”材料”という観点から見ると、もうそりゃ安いもんですね。はい。学生のおこずかいで用意できる程度じゃないでしょうか。初めて知ったときはショックでしたね。中学生くらいかな。自分の体がほとんど水とか炭素から出来てるなんてね。

でもそういう驚き・不思議さに惹かれたのが、私が化学に進んだ一因だったかもしれません。さらに高校へ進み、「結局、人体も空気もこの机も、あの空に浮かぶ月も、究極まで分解すれば(ここでは陽子・中性子・電子のレベル)同じものなんだ。構成するボールの数が違うだけで、鉄も金も炭素も酸素も同じもので出来ているんだ。」「火薬の爆発も、鉄棒の錆も、生物の呼吸も、形や早さが違うだけで全部同じ酸化反応なんだ。」と知ったときはさらにショックでした。あのときは「人類みな兄弟」とか「宇宙は一つ」なんて言葉が漠然と頭をよぎたなぁ。w



面白いですよ、化学。・・・・・・あれ、何の話だ?w